オクラの思い出 | ノスタルジック小学校

オクラの思い出

オクラが嫌いだ。

いきなりすみません。

私はどうしてもオクラを食べることができない。
どっちかというと好き嫌いはない方なんだけど、
オクラだけは別である。あれはちょっと箸を出す気になれない。

ところで
好き嫌いがないというのは
嫌いな食物がない、というだけじゃなくて
特別に好んで食べたいほどの食物もない、というのが正しいんじゃないだろうか
なんて屁理屈をこねてみる。
だって
「僕は好き嫌いがないんです」
と威張って言ったりするわりには
「この胡麻入り豆腐あんかけナポリ風だけには目がなくってねぇ」
なんて事を同じ人にさらっと言われてしまうと
あんた好きも嫌いもないんじゃないのかい、
心の中で突っ込みをいれてしまいたくなる。
もちろん心の中でです。口には出しません。小心者だから。

小学4年生だったかな。
夏が始まる頃に、母親が庭の畑にオクラの苗を一株植えた。

オクラを育てたことがある方にはお分かりでしょうけど
あやつは誠に丈夫で育てやすく、
放ったらかしておいたって勝手にどんどん花をつける。
陽射しが強まるにつれてたった一株だった苗は
みるみる葉をつけ立派に生長し、次から次へと新しい花を咲かせて
毎日毎日まいにち
何本も何本もなんぼんもの見事なオクラを実らせることになったのだ。

そんなふうにして
うちの畑の土に異様にマッチしてしまったそのオクラなんだけど
園芸好きな母のこと
きゅっと水道の元栓を閉めるような気軽な感じで
元気いっぱい無邪気に育つオクラ様を引っこ抜くわけにもいかず、
はじめのうちは
笑顔でご近所さんにおすそ分けをしていたけれど、
そのうちあまりにもそればっかりになっちゃったものだから
配るのが憚られるようになったんだろうな。
その気持ちも分かるけど。
その後に実ったものはすべて、
自分の家の台所で処理せざるを得なくなったわけだ。

今みたいに
料理のレシピ本や料理番組なんかも盛んじゃなかった頃です。

あの夏の我が家の食卓では
刻まれておかかと醤油をまぶされたオクラが
したり顔をして
来る日も来る日も私のことを待ち受けていた。

――ひと夏で一生ぶん食べました。

だから今も、私はオクラだけはちょっと食べることができないのだ。


余談だけど
恐ろしいことに
それとまったく同じことが
翌年、貝割れ大根でも繰り返されることになっちゃんたんだよな。