明け方の処置室 | ノスタルジック小学校

明け方の処置室

明け方、末っ子がぜんそくの発作を起こした。

前の夜から様子がおかしかったのだ。
うちにある吸入器で、医者に指示されている通り最大限の吸入をしていた。
でも一向によくならない。
限界が近付いたころに車で私立病院まで走った。

こういってはナンだけど、次女もそうだったし末っ子もぜんそく。
明け方の救急外来は慣れている。
まああまり慣れたいものじゃないんだけど。

診察で、ああこりゃけっこうひどいねえ と言われ、
問診のあともう一度吸入をすることになった。
看護師に処置室へ通される。

処置室。

大部屋程度の広さで、入ると奥から所狭しとベッドが置かれている。
普通の大部屋なら左右3つずつ合計6つのベッドになるんだろうけれど
ここのベッドは左右5つずつで全部で10もある。
それぞれカーテンで仕切られている。

吸入器は入り口すぐの右手。
左手前は医者や看護師でごったがえす、救急外来診察室とつながっている。
末っ子をひざに抱いて、超音波式の非常に静かな吸入器のマスクを口に当てる。
吸って、吐いて、吸って、吐いて
なんてやっているうちに、部屋の様子が気になってきた。

左5つのうちいちばん奥のベッドがなにやら騒々しい。
そこだけ医者も看護師も大勢いるし家族もおろおろしている。
カーテンの端からベッドに横たわった患者の足先が見える。

時折、びくんと震えている。

ピッ ピッ ピッ ピピピッ ピッ ピッ ピッ ピピピピッ ピッ ピッ・・・

不規則な電子音が漏れている。

突然に医者が
ご家族の方、ちょっと外でお待ちください と言う。

そこから2つ手前の、他のベッドの患者に付き添っていたご婦人にも、
右側のどこかのベッドに(吸入器の位置からはどのベッドか分からない)付き添いの男性にも、
すみませんが、ちょっと外していただいていいですか と看護師が言う。

処置室の中は、三人の(たぶん)患者を残して誰もいなくなった。
医者も看護師も慌しい。件のベッドと診察室を行ったりきたりしている。

ピッピッピーッ ピッ ピピッ ピーッ ピッ ピッ ピピッ ピーッ ピピピ・・・

恐ろしそうな医者も忙しそうな看護師も若さあふれるインターンも
みんな通りすがりに私たちに一瞥をくれる。
眉間にシワを寄せて訝しげに苛立たしげに。
とたんに ああ、ぜんそく患者か というような顔をする。
思い出したようにびくんと動く足先。
不規則なままの電子音。

何かが起きているんだろうけど、何なのか分かりたくない。

早く立ち去りたくてたまらない。
でも超音波式の吸入器はもくもくもくといつまでたっても霧を吐き出している。
ゆっくり、ゆっくりと。
終わる気配なんてまったくない。

ピピピピーッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピー ピピピッ ピー ピピピッ ピッ ピ・・・

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明け方の処置室なんて、やっぱりなかなか慣れるものじゃないですね。